無関心な人びと アルベルト・モラヴィア (著), 大久保昭男 (訳) Kindle の書評・感想

モラヴィアといえばバブルのころ今はもうなくなった青山ブックセンターによく在庫が並んでいた記憶があって、オシャレ系で意味も分からず小脇に抱えて文学をわかった風を装うみたいな、そんな作家という印象があった。

彼の『軽蔑』という作品をゴダールが映画にしたりしてやっぱりちょっとハイセンスな感じ。

当時読んではみたもののいまいちわかってなかったような気がして今回読み返してみた。

結論からいうと今回もわかったのかどうかはあやしい……

芝居じみた人工的なにおいのする小説空間で、建設的な態度のまったくない登場人物たちがくり広げる熟れた関係。

表題の「無関心」というのは道徳に対して、つまりは現実を好転させる姿勢に対して徹底的に「無関心」っていうことなんだと思う。

これがブルジョア世界を描いてブルジョア批判の意味を持っていたということを考えあわせればなんとくとなく納得するような気もする。

彼は自伝の中で、「われわれの時代の文学は、概念を小説的に説明しようとすることだった…」みたいなことを書いていて、たとえば『軽蔑』のなかでは女と男の会話が徹底して噛み合わないのだけど、その女の会話、男に投げかけることばが「軽蔑」とは何かということの小説的な答えで、それを会話で表現したのは文学史上自分がはじめてだ、とも語っていた。

そう考えると無関心とは何か?という問いにこの作品は小説的に答えているのだろうけど、やっぱりここまで暗いと読むのがちょっとつらいワナ。

時代的な暗さもあったのだろうけどドストエフスキーに影響されたという彼はやっぱり暗いんだよね。

暗さを書ききれば明るさが見えてくるのかな?

小説はしょせん大人のメルヘン、ファンタジーなのだからその暗さの美を楽しむみたいな文化がイタリアにはあるのかな?

イタリア文学というのは、あの中世の絵画にも感じる一種のおどろおどろしさ、奇怪さを感じて、読んでいてもなにか脇から飛び出してくるんじゃないかいう感じがしたりする。

このそこはかとなく感じる民族性みたいなものは世界文学を考えるうえで組めど尽きせぬテーマの源水にもなりそうな気がするけど、それを汲みだす手立てが今のところ私にはない。

文章は簡明で正確。イタリア職人を思わせる手際よさ。

20世紀の天才と謳われ、
一等地の書店を飾った才能も今はもう古書を探すのも一苦労する。

時代ってこわいなって思った作品でもあります。

そういえばモラヴィアは自伝のなかで別れた奥さんと毎日ご飯だけは一緒に食べる約束をしているという話をしていた。

彼はいう。「本当に愛したものには別れは来ない」

いいことばだと思う。

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 学校の図書カードがいつも真っ白だった少年が「ことばは絶望を希望に変えうるか」という疑問を持ったことからはじまった四半世紀を超える読書生活。ことばとはなにか?書くとは?そして今もつづく本との出会いをゆらゆら語る書評ブログ。世界文学の復興と進化に貢献することがライフワーク。

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