遥るかする、するするながらIII/よき・の・し 山本陽子 の書評・感想

私がことばについて語ろうとするとき、詩人・山本陽子は避けて通れない。

声なきものの声、ことばにならない思いを表現することが作家や詩人の本来の仕事だと思い出させてくれる。

まったく意味はわからないけど、これをいわずにいられない切実さだけがなぜかたしかに伝わってきて涙が出そうになる。

ほとんど実人生をかえりみず、すべてを詩にささげたようにも見える詩人の気迫が行間にあふれている。

ん~彼女の詩を伝えるだけのことばを私はもっているのかな?

躊躇、とまどい、迷い、渇望、不審、希求、渇望、逸脱、取捨、反応……どれもちがう。たとえば、ことばをつかもうとする。でもつかみそこねてしまう。なにかが自分のなかを通り過ぎる。それをそのまま音にする。たしかに存在している。でもそれは3次元じゃない。なにか感じのようなもの。たった1音でもことばになる。思いつく。でもちょっと違う。また探す。違和感は神妙な圧力になってことばを変形させる。

ことばをつむぐことをあきらめそうにもなる。そんな表現はありはしなのだと思う。でも語ることをやめられない。こどものころを思い出す。ぐちゃぐちゃ遊びやびちゃびちゃ遊びをしていたころ。あのころのように無邪気にことばで遊べばいいのだと思いなおす。

イメージに導かれながらその中に入り込む。あわせ鏡のように無限に世界が広がっていく。終わりはない。浮かび上がり息をついてまた潜る。そうせずにはいられない。既存の文法をのり越えて、ことばは擬音化していくが、作家にはたしかにそのことばでいま自身のなかにある心情を、イメージをとらえたのだという確信がある。

我慢のならない現実にけっして対峙せず、はにかみながら断固として黙殺する。

容認できない現実をスルリとかわせば、そこに詩の世界が広がる。

ことばとことばの間、うしろ、横、そこにある、いわくいいがたい、ことばになる前のあるいはことばが語られたあとのいい残されたなにかが、おどろくべき純度で文字に置き換えられ、高い透明度のまま奇跡的に保たれている。そんな感じだろうか。

「波動」というものが存在し、ことばの言霊のほんとうの真価を彼女は知っていたのだろう。つよく感じていたのだろう。

彼女は「私の詩は100年たてばわかる」といい残したそうだが、あと50年でどこまでその意味に迫れるのだろうか?

今回彼女が同人誌にはじめて寄稿した文章がヘンリーミラーに関するものだったということを知った。気が合うな。類は友を呼ぶ、同じ波長のものはやっぱり近所に集まってるものなんだ。私も自分の感性をもう少し信頼してみるのもいいんじゃないかなと思った。

 

*…長いけどどこででも読めないので、転載しておきます。転載元様この場を借りてお礼申し上げます。

 

遥るかする、するするながらIII
山本陽子

 

遥るかする
純めみ、くるっく/くるっく/くるっくぱちり、とおとおみひらきとおり むく/ふくらみとおりながら、
わおみひらきとおり、くらっ/らっく/らっく/くらっく とおり、かいてん/りらっく/りらっく
りらっく ゆくゆく、とおりながら、あきすみの、ゆっ/ゆっ/ゆっ/ゆっ/ とおり、微っ、凝っ、/まっ/
じろ きき すき/きえ/あおあおすきとおみ とおり/しじゅんとおとおひらり/むじゅうしむすろしか
つしすいし、まわりたち 芯がく すき/つむりうち/とおり/むしゅう かぎたのしみとおりながら
たくと/ちっく/ちっく すみ、とおり、くりっ/くりっ/くりっ\とみ|とおり、さっくる/さっく
ちっく/るちっく すみ、とおりながら
純めみ、きゅっく/きゅっく/きゅっく とおとおみ、とお、とおり、繊んじゅん/繊んく
さりさげなく/まばたきなく/とおり、たすっく/すっく/すっく、とお、とおりながら
すてっく、てっく、てっく
澄み透おり明かりめぐり、透おり明かりめぐり澄み透おり
透おりめぐり明かり澄みめぐり、めぐり澄み明かりぐりするながら、
闇するおもざし、幕、開き、拠ち/ひかりおもざし幕開き拠ち
響き、沈ずみ、さあっと吹き、抜けながら
響き、ひくみ、ひくみ透おり渉り、吹く、透おり、/
先がけ、叫び、しかける街々、とおくをわかち、しずみ、/透おり交いながら
しずみ 、しずみ透おりひくみ、ひびき、ひくみ/つよみ透おりするながら、たえまなく
透おり交わりするながら/ひびき透おり放ち、
瞬たき、路おり乗するながら
夜として観護るごと、めばめき 帳ばり、ふた襞、はたはた ひらき 覆い/

響き、/ 尽くし/吹く透おり/消え、
しずみ、/ひくみ、/
ひびき透おり吹き
ふためき、はたと墜として、はたり /途断え、やみ、蔽い

吹く、吹く、吹く、おとないかぜ透おり、おとなしかぜ渉り、
吹く、やすらぎ/すずしやぎ
りり、 りりり、りりり

夜する/ふんわり、かげろう 薄すまめぎ/口開き拠ち、
夜切り、浮きたち、ひろひろ透おり、澄み透おり透おり明かりするながら、
絹ぎ/すき/消え/さやとおり 澄まり静まる夜する口開切り拠ち
融け透おり/ 芯へおいて/燃やし尽くされ、消え/
沈ずみ、充ち、放ち、高かみ、透おり交わするながら、
清烈し静濫し/透おり
豊かみ、ゆえみ、揺み、透おみ、たえまなく/ゆみ/とおり、まどやか/すみ/
透おりつくし/透きみ/清み/撒き、透おり するながら
夜する口切り 透おり渉り透おり贈くるするながら

そこ/とおり/とおり仄やか/しらめくくちなし匂おぎ
ふっくら透おり渉り つうーん くちなし匂おき 透おり
すうっとすずしやか/かすか/透おり渉り透おり匂いくちなし

るきっく とおり|あららぎ、あゆうーん/あゆーん/あゆーん/ゆーん ふううわーん/ふうわーん/ふわーん/ふわきりりっ
くっとおとおりりっくりき、とおおーん/とおーん\とおーん/とおん とおとおするながら
はじめてのみちするかた 情い
さらああーん さらああーん/さ、ああーん/さ、あーん
とおおーん/お、おーん、おーん やみなくくっく/ことっく/かたっく/とおとおり
こおおおん/こおおん/こおーん/おーん するながら、
すううーん/す、ううん/すうーん とおんび/とおとお/りり、りっく
たああん/た、ああーん/たあーん/たあーん りりっく、り 澄み純のめするながら

りり、り りり、り 仄やぎ/憧れ 透おり、吹く、おとないかぜ、渉り 吹くやみしかぜ
透おり
透おり、くぐり、りりっく、透おりするながら、
りりり りり、り りり、り/
さっとまろぎ、
まろ深ぶかみ、透おり
淡ららぎ、扇ききらり、扇ききらり、扇ききらり、あおきりしんせん充ち、すみきり
おさららぎ すぎり、すぎりわたり透おり、
あらたく/あらたやぎ 吹き、吹き、わたり透おりながら
すくりくけく、活づき、活づき、活づき
活づき透おり ま深ぶかみ
遭ららぎ 扇ききり 扇ききり あふりきようじんすんなり充ち、すみきり、
そぎららぎ 吹きとおりわたり
あやたやぎ/あらた 透おり わたりながら
まろぎ透おり遭い交いながら
みなみなしぎ/みずみずしぎ 吹き、吹き、/吹き
あらたく/あらたやぎ 活づき 活づき/活づき
すずしやぎ/すく/すくりやぎ りりり、りりり、りりり/
遮ぎりなくしく/果てしなくしく
りりり、りりり りりり 吹く渉り透おり 吹く おさない、吹く おとないかぜ透おり吹く
おとないかぜ憧れ透おり

とおーん/とおーん/とおん/とおとおんび 透おり りりっく/りっく くぐり 透おりするながら
吹く、渉りおさなとぎ透おり、吹くおとないしぎ透おり 吹く、おとなしぎ透おり 吹く 憧れかざかぜ透おり
りりり、りりり、りりり、りりり
くっく/くっく/くっく とおり/さ いおおーん/ふおおーん/ほおーん/おおーん
尨くらみ/むな/ふわふわり/尨くららみ、
きらら、ぎん/すき/きらら 透おり添い/透おり添い透おり/きららっ 澄みあき/透おり
優さしげ/柔わらかげ/憩らげ/消え きら/きらっ/きらっ/きら、澄み/きらら
舞い/あが透おりながら、
ひらら、ひらら/きえ/とおりたち とおり/とめ/すき/きえ/きらら
そりとおりたち/いとけなくたちとおり/とおりたちとおり/むすうしむじゅうし
ふうわり/ふうわり/ふうわり/ふうわり
りり り りり り りりり
ひとつ/ひとつ、ひとつ、ひとつ 軽やけく/震るえやけく/繊やけく
舞いちょうじ 透おり/透おり舞いちょうじきらら、きらら/ 透おりちょうじきらら舞い
つどい透おり/きららっ緩っく緩っく察っく 舞いちょうじ 透おりながら
きらら、きらら、きらら、透おりかい/透おりかい透おりながら、、きらららっ
息き、/息き/息き/息ききり 舞いちょうじながら
添い透おり/透おり添い/あが透おり消えながら、

りりり、りりり、りりり 吹く、透おり渉り透おり、吹く おさなしぎ 吹く、おとない吹くおとなしぎ 吹く
憧れ かざしぎかぜ

透おり、透おり
仄やか、息き吹くる/乳白滞びる/ひろぎ、透おり交い充ち/とおくを支する街々するながら
遮えぎりなくして/果てしなくしく りりり、りりり、りりり
澄み、透おり、たんちょうじ、拠ち/むくげ
すらり、/すらり、すらり、
透おりたんたん 透おり、たん/ちょうじ敏ん透おり
むくむく/とおるく拠ち するながら、
透おり、茫わ、茫わ/茫わ/むすうし、先すらり/すらり/すらり/あわび摩び/たん透おり、
/たん、たん/細そめひらき、/、はなり、透おり/まぶしげ/あわげ むすう摩び
察っとゆらき楽び透おりすらり、すらり、すらり 透おり先
おく、とおとどき/さりさげなく/うつむきなく/透おり
敏ん/敏ん/びん/敏ん/むくむくげ、
ほおおーん/お、おーん/おおーん/ほおーん拠ちするながら
透おり、すらり/透き透おり/透おり透きすらり透おりひらきはなり/すらり透おり透き透おり/
あわげ/むすう/きら摩び、きらり/きらり、/きらり 先細めするながら
さくっさく/たんちょうじ、透おり/たん/たん/たん/ひくみ透おり
おくとおるく拠ち
たんちょうじするながら

りりり、りりり、 渕ち さっと揚ぎ 吹き 吹き、吹き/憧れ透おり/ 吹く、吹く、吹く透おり渉り透おり吹く、おさなしおとなし かざ透おり おとなしかぜ
りりり、りりり、りりり

瞼か/透おし 澄みめ純みめ/おく、とおとおく/透おし
刷っとまみえだち、おうるみ 泊だち ひっこみ/ひっこみ 敏いいーん 透おするながら
ぽおおろろーん/ぽおおろろーん/ぽおろろん/ぽおろん/ぽおーん
ひくみ/ひくみ/ひくみ かなでを つづり、透おり
親し/推し たん/たん/たん 透おり、むくむく/りりっく たんちょうじするながら、透おり
とおくを わかち/しずみ、りんりんひびきひくみ、透おり交い真するながら
息吹く、息吹く 先がけ
たえまなくひびき透おり、交わし/透おり ひびき、つよみ、放ち
しずみ しずみ ひくみ ひくみ つよみ透おりしずみ
ひびき、 そっと揺み透おり、うち顫るるえ しずみ ―― 渉り
渕ちより おくおもむきおくぶかみ、先拠って/孤し赴き汲み降するながらの むくむぐ/むーん
/先拠ちするながら
創り為しときしする 渕ち/はじまり、透おり くぐり、やすみなく、くぐり先拠ちするながら
越え創りなし、越え/ときしなする越え/想いするながらの ときしなするおわり
まばたきなく/とびたつことなく
えぴぐらむ さりさげなく/すうっとすき/とどききえ/とおり
えぴぐらむ ひくみ/ひくみ つくしんぼおるく ひくみ 声ねに 烈しみ/はにかみ/澄み
おくとくるくするながら、/
茫っ/茫っ/茫っ 摩び透おり 先すらり/透おり透おりすらりら先/ごくあわげ/あらぎ/
あわ、あわけ、察っ察っ透おり/察っ透おり/先震れ微っ/微っ/先透おり/ かんしょくし/
かんそくし/透っり 拠ち
さわさわこぎ 息づき そよぐ森、くねり・施めき 白路する森 さわさわ透おり走り交り裡ち森

びゆゆーん/びゆゆーん/びゅーん/ゆん 匂ぎ ふっききり 渉りれ吹透おり吹く/吹くおとなし
かぜさわしぎかざあられ透おり
あおきりしくせんすみきり充ち あふりきょうじんあわあわ充ち/すんなり
攫っとえぴぐらむ/かぜかざ透おり ひくみ/ひくみ/ひくみ尽く/し/
えぴぐらむ つくざり透おり/ぴくりあららぎ/膨くらみ/澄み純みめるらきくとおとおく/し
かいてんつづり はじめするながら/
とどき・きえ/とおおくうく/瞼かく/きき/とおりいりとおり
瞼か/おくとおとおく情い (/) たんちょうじ拠ち 先細めひらきすらり/すらり/あわげするながら
きっぱり //むくぐ
さいごのげんじさぬ ひくみ ひくみ ひくみ 透おしするながら

鵠じ担い走り続け/はじめるながら/先拠って
情い先拠ち
彷/精気、透おり<声ぬ> 初源彷

(全行・思潮社「現代詩手帖」昭和45年=1970年10月号、同人誌「あぽりあ」8号より転載)

*人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男より転載

 

 

よき・の・し

あらゆる建築をうちこわし、
いかなることばを
あとにのこすな、
すべてをもえつき、
もやしつくせ、
全けき白さをひっさらって
死のとりでをひとこえよ
よきをひだにふくみのみ
さまざまなる夜をはらめ、
死のこちらには死がひそみ
種のうちには絞られた精気、
濾過した夜に
血清があった
やさしく勇気みついかりを決して決して
あとにおとすな、
よきのうちに苦しみがあり、
苦しみのあいだに割れ目あり、
黒き旋転に露しとろうと
決して それをそれとおもうな、
死がすべてをけし去っていて
全けき ものつれ去るとも
飛ぶときには
軽ろきがいた、
残した埋(も)れ木は 焼ぽっくいで
残した種は 鳥がついだ
あとをうがち、あなあしため
したたりおとした数千の、
透明な肉をすいつくし、
決して決して
環えるな
いのち白い霧吐きだすたび
星をえて 光りしない
血を亡脈に黒ずませ
こころのかたどり、雲をちぎり、
冷気ちらし、空を去らす

突破するたびに数千の綱が壁をつくった
壁はからみ しとねつき
頭のなかに 垂直がある
光こごらせ 結晶がある
にごいもてはなつ海をよび
海泡のつぶて くだけちる

かつて死んだひとりの男がいて
おまえに置言(ごと)を手渡したら
その言葉を地に埋めよ
かつてすべてが刃向かっていて
おまえの仄を噴き出したら
汗に黒さびた金属(かなもの)を
ずきずきと踏み 風にはなて
かつて死んだひとりの男がいて
かってにしやがれと呟いたとき
かってなき塩の結晶が造った
朝の食卓にピケルスがあった
かつてあったひとつの種が
身をやくたねをもとめたとき
木々は交れり火花散した
かつてある禁忌が衣、ばさりおとし
かってなきことについて
かくてかってにあるときには
魔術がひとをかなしばりする
いまは
いまわのきれなるかた、
僧侶の裸体に手濡れつくし、
身体にこれ小鐘がなると、
あけ方に骨きしむ勤行がおこる、
しぜんてきしぜんがしぜんするあいだは、
ひつぜんすべては、
おまえがうみだした卵ばかりだ

あらゆる魔術を変身しつくし
いかなるひとも
あとにのこすな
あらゆる大陸をわたりはなら
いかなるもの、いかなるあし、いかなる、は
をも 露に尽きさせ 冬にくだけ
あとに あとをのこすなら
おまえは死を譲り渡す、
あとにのこしてきたものが
無をおまえに譲り渡す、
廃跡は、いつ いかなるともにあった、
それは いつ いかなるときになかった、
それは いま だけにある
かつて現在というものがあるときに
廃墟は未来のものであり、
かつて現在というものがあったあいだ
過去は未来の廃墟であり、
かつてなかった過去の過去は
いま だけにある、
死のむこうにはなにがあるか
死のむこうにはなにがないか、
なくてあるものは
いま だけにあり
死は生のうちにひそみ、
無をおまえに譲り渡す
否、やさしく勇気あるいかりを決して
決してあとにおとし、あるものとなしてはいけない。
冷却したすべて
というものには
死の数否ひそみ
冷い凝乳に
悪はうせる
朝の立売りには昨日という、
いまわの過去が巻きパンとともにやってきて
さらばということばをいくらかだけはかせ、
夜の冷気までに死はちかんしていた
決して決して
あとをおとすな、
あとに、
全けき白さをひっさらって
死のとりでをのりこえよ
もし、ということばはらむなら、
決して決して
ならばとは
いうな、
もしをもしものものからやかれよ

(「山本陽子全集 第一巻」より)
*2848.詩とは、寺の言葉であるより転載

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 学校の図書カードがいつも真っ白だった少年が「ことばは絶望を希望に変えうるか」という疑問を持ったことからはじまった四半世紀を超える読書生活。ことばとはなにか?書くとは?そして今もつづく本との出会いをゆらゆら語る書評ブログ。世界文学の復興と進化に貢献することがライフワーク。

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