青い麦 シドニー=ガブリエル コレット(著)光文社古典新訳文庫 の書評・感想

啄木は、空に心を吸われていて、尾崎豊は盗んだバイクを走らせていて、アン・シャーリーはグリーンゲーブルズでクイーンズカレッジの受験勉強を始めて、M・デュラスはインドシナの植民地で中国人の愛人に抱かれていた。

あなたは15歳の時なにをしてましたか?

この作品の15歳ヴァンカは幼なじみの恋人フィリップに夢中。そんなフィリップはいわゆる大人の女性の誘惑に今にも負けそう。

海、空、花、香り、年上女性の誘惑… なんか若いころに魅力的だったのがよくわかる。自分にも青春時代があったんだなとおもわず思ってしまう。作者のコレット自身が、作品に登場するフィリップを誘惑する謎の女性といった雰囲気の人。文化的な深みがあって幅があるような年上女性に人生の、恋の、そして性の手ほどきを受けてみたいというのは少年の秘かなる永遠の夢なのかもしれない。

そしてあの頃の感覚自体は今もあんまり変わらない。でも一方でもういいかなっとも思う自分もいる。歳云々じゃなくやっぱり感覚、感動にも賞味期限があるんじゃないかな。

そういう意味で青春時代っていうのはやっぱり特別な時間なんだなと思う。その時にしか見えない、感じられない真実がある。

それが大人になってから青い夢だったと苦く思うことがあったとしても、永遠でなくても真実ってあるんじゃないかな。たしかにかいま見られた、たしかに触れえた真実はたとえ一瞬でも貴重だと思う。

この小説は恋愛大国にもみえるフランスで、はじめて一般人どうしが自由恋愛をする話でもある。意外に思ったひとは、なぜそういう歴史になっていたのか巻末の解説に詳しいのでぜひご一読を。なんでむかしの海外小説の主人公の女の子がいつも修道院にいるのか?なんかもよくわかる。

しかしコレットも文章がうまいよね。世慣れているというか、世間知があるというか、潮の香、色とりどりの草花、みずみずしいふたりの若者。やっぱりこういうの書かせると女性がうまいし、好きなんだろうね、庭もののエッセイとかもだけど、生活のこまごまとした情景を実に美しく仕上げている。過ぎ去った青春の日々とともに、ずっと作品の中に浸って出ていきたくなくなる、そんな気持ちにさせてくれる作品です。

 

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 学校の図書カードがいつも真っ白だった少年が「ことばは絶望を希望に変えうるか」という疑問を持ったことからはじまった四半世紀を超える読書生活。ことばとはなにか?書くとは?そして今もつづく本との出会いをゆらゆら語る書評ブログ。世界文学の復興と進化に貢献することがライフワーク。

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