愛人 ラマン マルグリット・デュラス(著) 河出文庫 の書評・感想

とかく性愛部分だけが取りざたされてスキャンダラスに語られることの多いこの作品。

 

ただ許容するにせよ拒絶するにせよ、感情的に揺さぶられているだとしたらそれは作家デュラスの腕がたしかだということだろう。

 

ノーベル賞作家のバルガス=リョサが『若い小説家に宛てた手紙』のなかでいうことには、小説が偽りのないものだと感じるのは、「テキストの中で、テーマ、文体、視点が完全に融合しているから」だということらしい。

 

いくら特異な実体験をこと細かく書いたとしてもそれだけで伝わるわけではないということだな。

 

作品を読んで思うのは、真善美と価値があるなかで、ブンガクはやっぱり美が第一義だということ。ラマンは文体が変幻自在に移り変わり、話が具象から抽象へまた抽象から具象へと自由に上下する。まさに川のごとくのそのうねりが美しい。

 

美に導かれることで読者は時空をやすやすと超えて、論理も倫理も拘束力を失い、組み替えられた事実の隙間からほんの一瞬真実の一部を垣間見る。

 

それに意味があるかって?ブンガクの実用性はよくわからないけど、その真実性は作家への信頼、作家の誠実さに負うのだろう。

 

つまり“彼女”がいうから信じる、あるいは“彼女”がいうから信じないっていうこと。確かめようがないよね。もう時空を超えちゃって合理的じゃないんだから・・・

 

むかしファッション評論家の大石順子さんが、とあるスパーモデルを「人殺ししても許されるんじゃないかっていうぐらい美しい」と表現されていたけど、美は軽々と倫理も正義も超えていく。もちろん逆も真で、この真善美はたがいを平気でないがしろにするんだよね。いいことはいうけど髪バサバサなひととか・・・

 

けれど性愛がこの作品の心臓部に突き刺さり、通底音として作品を支配していることは否めない。

 

デュラス自体がセンセーショナルでセクシーなんだろうな。

 

ワードのチョイスもオシャレで作家歴40年のデュラスの集大成ともいえる超絶技巧が堪能できる作品。

 

なんど読んでもギュってしたくなる。もちろん少女ではなく作品の方を。

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 学校の図書カードがいつも真っ白だった少年が「ことばは絶望を希望に変えうるか」という疑問を持ったことからはじまった四半世紀を超える読書生活。ことばとはなにか?書くとは?そして今もつづく本との出会いをゆらゆら語る書評ブログ。世界文学の復興と進化に貢献することがライフワーク。

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